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名古屋地方裁判所 昭和54年(行ウ)24号 判決 1987年2月02日

愛知県半田市住吉町六丁目二八番地の一

原告

有限会社ブツシン

右代表者代表取締役

竹内一

右訴訟代理人弁護士

寺澤弘

木下芳宣

加藤洋一

愛知県半田市宮路町五〇番地

被告

半田税務署長

丸野節太郎

右指定代理人

宮澤俊夫

牧征夫

岩崎恭丈

前川晶

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五二年六月二八日付でした原告の昭和四八年六月一日から同四九年五月三一日までの事業年度分(以下「昭和四八年分」という。)、昭和四九年六月一日から同五〇年五月三一日までの事業年度分(以下「昭和四九年分」という。)、昭和五〇年六月一日から同五一年五月三一日までの事業年度分(以下「昭和五〇年分」という。)の法人税の各更正処分及び各過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は仏具小売業を営む株式会社であるが、その昭和四八年分、同四九年分、同五〇年分の法人税について、原告のした各確定申告、これに対する被告のした各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び各過少申告加算税賦課決定(以下「本件各賦課決定」という。また、本件各更正処分と併せて「本件各処分」ともいう。)並びに右各事業年度分について国税不服審判所長がした審査裁決の経緯は次のとおりである。

(昭和四八年分)

<省略>

(昭和四九年分)

<省略>

(昭和五〇年分)

<省略>

2  本件各処分は、次の各理由により違法である。

(一) 本件各処分は、原告が半田民主商工会(以下「半田民商」といい、民主商工会を単に「民商」という。)の会員であることを理由としたものであり違法なものである。すなわち、被告は、税理士田中正春等を使って原告に対し半田民商からの脱会を工作し、原告がこれを拒否するや直ちに本件各処分をしたものであり、不法な動機に基づくものであり違法である。

(二) 原告の本件係争各年分の所得金額は、いずれも前記各確定申告のとおりであり、本件各更正処分は原告の所得を過大に認定したものであって違法である。

3  よって、原告は、被告がした本件各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1は認め、同2は否認し、同3は争う。

三  被告の主張

1  推計課税の必要性

(一) 原処分調査時における経過

(1) 被告は、原告の法人税の申告内容等について検討したところ、原告が昭和四七年八月一日に設立されて以来一度も調査したことがなかったこと、同業者の申告内容に比し売上原価率が高く所得金額が過少であるとの疑いが持たれたことから、原告の事業実態及び申告内容を確認する必要があると認められ、調査対象として選定し、原処分担当者である井上幸彦及び林康夫の両名に、原告の法人税調査を命じた。

(2) 右両名は、昭和五〇年一〇月に調査に着手し、電話による事前通知を行った後、同月中旬以降、他の職員の同行をも含め翌五一年四月ごろまでに七、八回に亘り原告の本店所在地(以下「原告方」という。)に臨場し、調査を実施したが、原告の代表者である訴外竹内一(以下「竹内」という。)は、原処分調査担当者が前述の調査理由を説明した上で帳簿等の提示を求めたにもかかわらず、更に具体的な調査理由を開示すべきであるとして、極めて非協力な態度に終始し帳簿等を提示せず、半田民商の当時の事務局長訴外石浜時良ら同会々員数名の立会を強要し、テープレコーダーを設置する等して調査を妨害した。

(3) 昭和五一年七月一二日の配置換により、被告は、原処分担当者を若園昌英及び岡本勉に変更し、更に原告に対する調査を継続するよう命じ、右両名は、昭和五二年二月下旬ごろまでに、他の職員の同行をも含め約五回に亘り原告方へ臨場し、調査を実施したが、竹内は、前述の(2)同様、終始非協力であったため、被告は、原告に対する調査を断念し、原処分担当者に反面調査等の実施を命ずるとともに、原告に対する青色申告の承認を取り消した。

(4) その後、原告は、一旦、訴外水野明治、同田中正春の両税理士に関与を依頼したが、二か月足らず後にこれを取消した。

(5) 以上述べた経過により、被告は、原告の所得金額を実額で計算することができず、推計によってこれを算定し、本件各更正処分を行った。

(二) 異議調査時における経過

(1) 被告は、原告の異議申立てに係る調査・審理等を被告所部の本多金一及び伊藤斉の両名に命じ、右両名は、昭和五十二年八月中旬ごろ、右調査に着手した。

(2) 右両名は、同年一〇月上旬ごろまでに三回に亘り原告方へ臨場し、竹内に対し帳簿等の提示を求めたが、竹内は原処分調査当時同様非協力であった。

(3) 右両名が同月中旬ごろ四回目に原告方へ臨場した際、竹内はようやく帳簿等の提示に応じたので、右両名(なお昭和五三年四月以降は伊藤斉が異議担当を離れたため、代わりに石野憲男が担当した。)は、昭和五三年七月五日の異議決定まで、右帳簿等の調査を中心に調査・審理を行った。

(4) ところで、竹内が提示した帳簿等の中には、レジテープ及び昭和五〇年分の期末の在庫集計表が含まれておらず、また売上日記帳については、右両名が説明を求めた事項に関する部分に限って提示されたものであり、見積書は「得意先名」欄及び「商品名」欄等がマジックで塗りつぶされていたほか、提示された原始記録等にも欠落部分が散見された。

(5) 右のとおり、帳簿等の提示に制限が加えられたことから、十分な調査・審理に支障をきたしたため、右両名は、売上日記帳の全部の提示、昭和五〇年分の期末の在庫を推定するため調査日現在の在庫調査、見積書の内容不明部分の開示等を申し入れたが、竹内は、これに応じなかった。

(6) 右帳簿等の調査・審理の結果によっても、以下の不審点が抽出されたため、竹内にこの説明を求めたが、竹内は、これについても、単なる記載誤りであるとか、原告には関係ない旨等を理由に何ら明確な答弁を行わなかった。

<1> 現金出納帳と原告が発行した売上に関する領収証控との間に不符合が認められる。

<2> 上様仕入の商品名、数量、単価、仕入先等が記録されていない。

<3> 昭和四八年分及び同四九年分の期末在庫の元帳金額と在庫集計表の金額が符合しない。

<4> 売上に計上されている商品について、仕入が計上されていないものが認められた。

<5> 「沢田様」からの借入金の詳細が不明であるほか、返済日に返済額と同額の無記名定期預金が作成されている。

<6> 現金出納帳の現金の預金への預入額と、現実に預金された金額とが一致しないものがある。

<7> 反面調査によって原告の売上であることが判明したもので、売上計上漏れとなっているものが認められる。

<8> 当座出納帳と銀行発行の当座勘定照合表に不符合が認められる。

<9> 竹内が個人で取得した土地の資金出所が不明である。

<10> 原告に帰属するものであることが明らかな仮名定期預金の資金出所が不明である。

(7) 以上述べた経過により、被告は、竹内が提示した帳簿等を調査した結果、これらの記載内容の正確性につき、なお疑問が持たれると判断し、これによって原告の所得金額を実額で計算することはできないとして推計により所得を計算した上で本件異議決定を行ったものである。

(三) 以上のとおり、原告は、被告の原処分調査において、調査担当者に帳簿等を全く提示しなかったので、被告は、原告に対し、昭和五二年四月一二日付で青色申告の承認を取り消す旨の処分(右処分は、不服申立手続を経て、昭和五三年六月二二日、確定した。)をなし、また、原告の所得金額を実額によって算出することが不可能であったので、原告の本件係争各年分の所得金額を推計により算出したものである。

2  本件係争各事業年度の所得金額についての被告の主位的な主張は別表一の被告主張額欄記載のとおりであり、その算定根拠は次のとおりである。

(一) 昭和四八年分の所得金額 八四八万二七五五円

右金額は左記各項により算定したものである((1)―(2)―(3)+(4)―(5)+(6))。

(1) 売上金額 三七五六万〇六一三円

<1> 右金額は、原告の昭和四八年分の仕入金額(別表三)及び棚卸金額を調査して算定した売上原価二二〇三万六八一二円を同業者の昭和四八年分の売上原価率(売上金額に対する売上原価の割合)五八・六七パーセント(別表六)で除して算定した金額である。

<2> 売上原価率 五八・六七パーセント

売上原価率は、愛知県内において、原告と同種の事業を営む法人及び個人事業者で左記選定基準に該当する者(以下「同業者」という。)の課税事績を基礎に別表六のとおり算定したものである。

<選定基準>

イ 法人については昭和四九年三月一日以降昭和五一年八月三一日間に終了する事業年度、個人については昭和四八年から昭和五〇年の三年間(以下「選定年分」という。)。

ロ 選定年分のすべてについて青色申告書を提出している者。

ハ 選定年分において仏壇仏具小売業を継続して営んでいる者。ただし、次に該当する者を除く。

(イ) 選定年分の中途において設立、解散、休業、転業又は業種目変更等をした者。

(ロ) 選定年分の中途において、事業年度を変更した法人。

(ハ) 更正又は決定処分が行われたもののうち国税通則法の規定に基づく、不服申立期間又は出訴期間を経過していない者及び不服申立又は訴訟中の者。

(ニ) 小規模事業者で帳簿組織が簡易な記録方法(現金主義)によっている者及び期間損益が明確にされていない者。

(ホ) 小売業以外に兼業のある者。

ニ 選定年分のいずれかの年分の売上原価が一一〇〇万円以上で、かつ、六七〇〇万円未満の者。

ただし、事業年度が六ケ月の法人は申告額等を二倍した金額で判定すること。

(2) 売上原価 二二〇三万六八一二円

右金額は、昭和四八年五月末棚卸金額一〇七五万四二一七円に別表三の仕入金額二二五三万三五八六円を加算し、同四九年五月末棚卸金額一一二五万〇九九一円を控除したものである。なお、仕入金額の内訳は別表三のとおりである。

(3) 一般管理費及び販売費 六九五万一二一七円

右金額は、原告の申告額である。

(4) 営業外収益 二一万九八四二円

右金額は、原告が申告した雑収入一二万五〇〇〇円に左記受取利息の金額九万四八四二円を合計した金額である。

イ 東海銀行半田支店 九万四六二八円

ロ 半田信用金庫本店 二一四円

計 九万四八四二円

(5) 営業外費用 三五万九二八五円

右金額は、原告の申告額である。

(6) 税務調整加算額 四万九六一四円

右金額は原告の申告額である。

(二) 昭和四九年分の所得金額 一五〇四万三〇七四円

右金額は左記各項により算定したものである((1)―(2)―(3)+(4)―5)+(6)―(7))。

(1) 売上金額 五九七〇万二三三六円

右金額は、原告の昭和四九年分における仕入金額(別表四)及び棚卸金額を調査して算定した売上原価三三三四万三七五五円を、同業者の昭和四九年分の売上原価率五五・八五パーセント(別表六)で除して算定した金額である。

(2) 売上原価 三三三四万三七五五円

右金額は、昭和四九年五月末棚卸金額一一二五万〇九九一円に別表四の仕入金額三五四六万六四六六円を加算し、同五〇年五月末棚卸金額一三三七万三七〇二円を控除したものである。なお仕入金額の内訳は別表四のとおりである。

(3) 一般管理費及び販売費 一〇一七万五三〇七円

右金額は、原告の申告額である。

(4) 営業外収益 一四万一三七七円

右金額はいずれも受取利息であり、その内訳は東海銀行半田支店から一四万一二四〇円及び半田信用金庫本店から一三七円の合計額である。

(5) 営業外費用 八八万八二六二円

右金額は、原告の申告額である。

(6) 税務調整加算額 一三万〇六〇五円

右金額は、原告の申告額である。

(7) 税務調整減算額 五二万三九二〇円

右金額は、原告の昭和四八年分の更正処分により増加した所得金額に係る未納事業税の額である。

(三) 昭和五〇年分の所得金額八四三万八九二五円

右金額は左記各項により算定したものである((1)―(2)―(3)+(4)―(5)+(6)―(7))。

(1) 売上金額 五〇五一万八三四七円

右金額は、原告の昭和五〇年分における仕入金額(別表五)及び棚卸金額を調査して算定した売上原価二九二八万五四八六円を同業者の昭和五〇年分の売上原価率五七・九六パーセント(別表六)で除して算定した金額である。

(2) 売上原価 二九二八万五四八六円

右金額は、昭和五〇年五月末棚卸金額一三三七万三七〇二円に別表五の仕入金額二七三二万三二〇〇円を加算し、同五一年五月末棚卸金額一一四一万一四一六円を控除したものである。なお仕入金額の内訳は別表五のとおりである。

(3) 一般管理費及び販売費 一二〇八万三四〇二円

右金額は、原告の申告額である。

(4) 営業外収益 二七万六〇一四円

右金額の内訳は、東海銀行半田支店から二六万七三七九円及び半田信用金庫本店から一〇円の各受取利息と原告申告の雑収入八六二五円の合計額である。

(5) 営業外費用 六八万一四三七円

右金額は、原告の申告額である。

(6) 税務調整加算額 四三万三三六九円

右金額は、原告の申告額である。

(7) 税務調整減算額 七三万八四八〇円

昭和四九年分の更正処分により増加した所得税金額に係る未納事業税の額である。

(四) 以上のとおり、原告の昭和四八年分の所得金額は八四八万二七五五円、昭和四九年分の所得金額は一五〇四万三〇七四円、昭和五〇年分の所得金額は八四三万八九二五円であり、右金額の範囲内でなされた本件各更正処分及び右各更正処分を基になされた本件各賦課決定はいずれも適法である。

3  本件係争各事業年度の所得金額についての被告の予備的な主張は別表二の被告主張額(予備的)欄記載のとおりであり、その算定根拠は次のとおりである。

(一) 原告主張の仕入金額

本件係争各事業年度における原告主張の各仕入金額は別表三ないし五の各原告主張額欄記載のとおりであり、係争各年分の仕入金額の合計額は左記のとおりである(なお、右各別表の認否欄の○印は、原告が被告主張額を認める趣旨であり×印は被告主張額を争う趣旨である。)。

(1) 昭和四八年分 二三〇一万三〇六五円

(2) 昭和四九年分 三五五三万二四六一円

(3) 昭和五〇年分 二七一〇万三六三四円

(二) 右一の(1)ないし(3)の原告主張の各仕入金額を基礎として、前記2の被告主張と同様の推計方法により、原告の本件係争各年分の所得金額を計算すると、別表二の被告主張額(予備的)欄記載の各金額のとおりとなる。

(三) 以上のとおり、原告の昭和四八年分の所得金額は八八二万〇五二三円、昭和四九年分の所得金額は一五〇九万五二四四円、昭和五〇年分の所得金額は八二七万九七三三円であり、右金額の範囲内でなされた本件各更正処分及び右各更正処分を基になされた本件各賦課決定はいずれも適法である。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1については、原告が、被告の原処分調査時において、帳簿書類等の提示を拒否したこと、被告が原告に対し、昭和五二年四月一二日付で青色申告の承認を取り消す旨の処分をなし、右処分は不服申立手続を経て、昭和五三年六月二二日、確定したこと、原告は異議申立ての段階で、被告に対し、帳簿等の提示に応じたことは認め、その余は争う。

2  被告の主張2についての認否は次のとおりである。

(一) 同一の昭和四八年分の所得金額を否認する。

同一(1)の売上金額は否認し、同一(1)<2>の売上原価率、選定基準は不知、同一(2)の売上原価の金額は否認するが、期首、期末の各棚卸金額については被告主張額を認め、仕入金額についての原告の認否及び原告主張額は別表三の認否欄及び原告主張額欄記載のとおりである。同一(3)の一般管理費及び販売費、同(5)の営業外費用、同(6)の税務調整加算額については被告主張額を認め、同(4)の営業外収益については、雑収入についての被告主張額を認め、受取利息についての被告主張額を否認する。

(二) 同二の昭和四九年分の所得金額を否認する。

同二(1)の売上金額は否認し、売上原価率は不知、同二(2)の売上原価の金額は否認するが、期首、期末の各棚卸金額については被告主張額を認め、仕入金額についての原告の認否及び原告主張額は別表四の認否欄及び原告主張額欄記載のとおりである。同二(3)の一般管理費及び販売費、同(5)の営業外費用、同(6)の税務調整加算額、同(7)の税務調整減算額については被告主張額を認め、同(4)の営業外収益は否認する。

(三) 同三の昭和五〇年分の所得金額を否認する。

同三(1)の売上金額は否認し、売上原価率は不知、同三(2)の売上原価の金額は否認するが、期首、期末の各棚卸金額については被告主張額を認め、仕入金額についての原告の認否及び原告主張額は別表五の認否欄及び原告主張額欄記載のとおりである。同三(3)の一般管理費及び販売費、同(5)の営業外費用、同(6)の税務調整加算額、同(7)の税務調整減算額については被告主張額を認め、同(4)の営業外収益については、雑収入についての被告主張額を認め、受取利息についての被告主張を否認する。

(四) 同四は争う。

3  被告の主張3については、同一の(1)ないし(3)記載の本件係争各事業年度における各仕入金額を認める。同二の所得金額算出の基礎とされた売上金額、一般管理費及び販売費等の各項目についての認否は前記2と同様である。同三は争う。

五  原告の反論

1  推計の必要性について

(一) 原告は、被告の原処分調査時において、帳簿書類等の提示を拒否したが、その理由は次のとおりである。すなわち、一般に、税務調査について被調査者の誠実な協力を得るための前提として、その調査理由を明らかにする必要があるところ、本件において、被告の担当者は、原告に対し、税務調査の必要性について正当な理由を示さなかったので、原告は帳簿書類等の提示をしなかったのであって、原告の右提示拒否には合理的な理由がある。したがって、かかる帳簿の不提示を理由としてした本件推計による課税処分は違法である。

(二) 原告は、異議申立ての段階で、正規の複式簿記に必要と思われる殆どの帳簿書類等を被告の許に提出しているのであり、これらの帳簿書類等を基礎とすれば、本件係争各事業年度につき原告の所得金額を実額で把握することは可能であったのであり、推計の必要性はなかったというべきである。

被告は、原告の前記帳簿書類が不正確なものである旨主張するが、被告は原告の右帳簿書類を厳密に調査した結果、売上原価の期首、期末の各棚卸金額、一般管理費及び販売費、営業外収益費用等の項目に関しては、原告の申告額を是認しているのである。このことからしても、原告の申告の基礎となった右帳簿書類等は信頼性のある正確なものというべきである。

2  売上原価率について

被告主張の本件各売上原価率を原告の所得金額算出のために用いることは、左記の理由により許されないものというべきであり、これを用いてした本件各更正処分等は違法である。

(一) 仏壇、仏具の小売業を営む業者の中においても、販売の回転の早い業者とそうでない業者とでは、インフレによる商品の値上り益享受の有無の点で、売上原価率が全然異なる。特に、異常なインフレの始まる前の昭和四十七年頃までに仏壇を大量に仕入れていて、これを在庫として持っていた同業者の売上原価率は極めて低くなるのであり、被告はこの点を無視して、本件売上原価率を算出している。

(二) また、当該同業者が仏壇、仏具の修理の技術を身につけていて、修理の注文を多く受け、売上げ中に占める修理の割合が他の同業者に比べて相対的に高い場合は、売上原価率は低くなる。被告は本件各売上原価率を算出する過程で、各同業者の売上げ中に占める修理の割合如何を捨象してしまっている。

(三) 原告は、訴外彫清商事に対する販売のように卸商的な販売も営んでおり、また、値引きを厚くして販売回転率を上げようとする経営姿勢を持ち、自ら修理をすることは少ない。このような売上原価率を高める特殊事情のある原告と、被告が売上原価率算定のために選択した別表六の納税者(同業者)アないしキが、果たして原告と同じ業態の仏壇、仏具商であるのか否かが全く不明である。このような業態の異なる可能性のある同業者の平均値でもって、原告の売上金額を推計することは、原告の所得を過大に認定するおそれがあり違法である。

六  原告の反論に対する被告の認否

原告の反論はすべて争う。

第三証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これらをここに引用する。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  原告は、本件各処分は原告が半田民商の会員であることを理由とした不法な動機に基づくものであり、違法である旨主張(請求原因2(一))するが、これを認めるに足りる証拠はない。

三  被告の主張に係る原告の本件係争各事業年度分の所得金額は、推計により算定したものであるから、まず、右推計の必要性の有無について検討する。

被告の主張1の事実のうち、原告が、被告の原処分調査時において、帳簿書類等の提示を拒否したこと、このため、被告が原告に対し、昭和五二年四月一二日付で青色申告の承認を取り消す旨の処分をなし、右処分は不服申立手続を経て、昭和五三年六月二二日確定したこと、原告は異議申立ての段階で、原告に対し、帳簿等の提示に応じたことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実と証人井上幸彦、同田舎片明の各証言及び原告代表者本人尋問の結果(ただし、後記採用しない部分を除く。)によれば、被告の主張1一の事実が、右争いのない事実と証人伊藤斉の証言及び原告代表者本人尋問の結果(前同)によれば、被告の主張1二の事実がそれぞれ認められ、原告代表者本人尋問の結果中、右認定に牴触する部分は採用し難い。

思うに、推計の必要性は原処分時(本件各更正処分時)に存在することを要し、それをもって足りるものと解すべきところ、右認定の事実関係によれば、本件更正処分当時、原告は被告の調査担当者が具体的な調査理由を開示しないことを理由に、本件係争各事業年度分の帳簿書類等の提示を拒否し、かつ、原告は被告の調査担当者に対し十分な具体的説明をしなかったのであり、右提示拒否には何ら合理的な理由がない(調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知は質問検査を行う上の法律上一律の要件とされているものではない。最高裁判所昭和四八年七月一〇日第三小法廷決定、刑集三七巻七号一二〇五頁)ことからすると、被告は右各年分の所得金額を実額により把握するに由なく、これを推計により認定する必要性が存したことは明らかである。したがって、原告の反論1の(一)、(二)は、いずれもその理由がない。

原告は、前記認定のとおり、異議申立ての段階で右帳簿書類の提示に応じたものの、原告が提示した帳簿書類等の中には昭和五〇年分の期末の在庫集計表ないし棚卸表が含まれていなかったため、被告の担当者が昭和五〇年分の期末の在庫を推定するため調査日現在の在庫調査、見積書の内容不明部分の開示等を申し入れたが、原告はこれに応じなかったばかりか、被告の担当者が原告提示に係る帳簿書類等を調査した結果生じた種々の疑問、不審点(被告の主張1(二)(6)の<1>ないし<10>)について、十分な具体的説明をなし得なかったこと、また、本訴において、原告は異議申立ての段階で提示に応じた帳簿書類等を証拠として提出している(甲第二、三号証、第八、九号証、第一二号証の一ないし六、第一三号証、第一四号証の一ないし四、第一五号証、第一六号証の一、二、第一七号証、第二四号証の一ないし五、第二五号証)けれども、原告本人の供述によっても、右各証拠(帳簿書類等)の記載内容に関する右各疑問ないし不審点については、十分に解明されたものとは到底いい難く、その信ぴょう性については疑問があること等に鑑みると、本訴においても、原告の本件係争各事業年度の所得金額を実額により算定するに足りるだけの証拠はないものというべく、本訴においてもこれを推計によって算定するほかはない。

四  次に、本件係争各事業年度の所得金額についての被告の予備的な主張(被告の主張3)について、以下、検討する。

1  被告の予備的な主張における本件係争各事業年度の各仕入金額及び期首、期末の各棚卸金額(別表二の被告主張額(予備的)欄の各金額)については当事者間に争いがない(右仕入金額は原告主張額を採用したものである。)ので、右予備的主張においては、別表二の被告主張額(予備的)欄の各売上原価の金額は、当事者間に争いがないことになる。

また、本件係争各事業年度における一般管理費及び販売費、営業外費用、税務調整(加算)、税務調整(減算)の各項目の金額については、別表二の被告主張額(予備的)欄記載のとおりであることにつき、当事者間に争いがない。

したがって被告の予備的な主張における争点は、被告の採用した売上原価率の適否と被告主張の営業外収益の有無のみである。

2  売上原価率について

成立に争いのない乙第二号証の一ないし二〇によれば、名古屋国税局長は愛知県下の各税務署長に対し、法人又は個人の仏壇、仏具小売業者で、選定年分(法人については、昭和四九年三月一日以降昭和五一年八月三一日間に終了する各事業年度、個人については昭和四八年から昭和五〇年の三年間)において、各税務署管内で継続的に事業を営んでおり、かつ、右選定年分のいずれかの年分の売上原価が一一〇〇万円以上六七〇〇万円未満(ただし、事業年度が六ケ月の法人は二倍の金額で判定する。)の範囲内にある青色申告者であって、ただし、<1>右選定年分の中途において設立、解散、休業、転業又は業種目変更等をした者、<2>右選定年分の中途において、事業年度を変更した法人、<3>更正又は決定処分が行われた者のうち、国税通則法の規定に基づく不服申立期間又は出訴期間を経過していない者及び不服申立て又は訴訟中の者、<4>小規模事業者で帳簿組織が簡易な記録方法(現金主義)によっている者及び期間損益が明確にされていない者、<5>小売業以外に兼業のある者、にそれぞれ該当する者を除外した同業者についての売上金額、売上原価の額、売上総利益(売上金額から売上原価の額を控除した金額)に関する課税事績について報告するように通達したこと、右各税務署長が右通達により調査した結果、右抽出基準に該当した同業者は、一宮、半田各税務署管内に各二名、刈谷、岡崎、西尾各税務署管内に各一名の合計七名であり、県内のその余の税務署管内には、右に該当する同業者はなかったこと、右該当同業者七名の昭和四八年分ないし昭和五〇年分における売上金額、売上原価、売上原価率は、別紙六の各該当欄記載のとおりであることが認められる。したがって、その平均売上原価率(本件各売上原価率)は、次のとおりとなることが計数上明らかである。

昭和四八年分 五八・六七パーセント

昭和四九年分 五五・八五パーセント

昭和五〇年分 五七・九七パーセント

(小数点三桁以下四捨五入)

右認定の事実によると、別表六記載の各金額は同業者の青色申告書の記載によったものであり、右平均売上原価率の算出の基礎となった者は、原告と同じく愛知県内で仏壇、仏具小売業を営む者で、かつ、売上原価が原告のそれと類似する者であり、同業者の抽出基準に合理性があり、その抽出には被告の恣意の介在する余地がなく、その抽出数は同業者の個別性を平均化するに足るものといえ、また、同業者の各売上原価率をみても、極端に低率又は高率を示す同業者は選出されていないから、このようにして算出された前記各平均売上原価率(本件各売上原価率)は正確性及び一応の普遍性が担保されているということができる。

この点に関し、原告は、<1>仏壇、仏具の小売業を営む業者の中においても、販売の回転の早い業者とそうでない業者があり、また、仏壇、仏具の修理の技術を身につけていて、修理の注文を多く受ける業者とそうでない業者があるのに、被告はこれらの点を無視して本件各売上原価率を算出していること、<2>原告は卸商的な販売も営んでおり、また、値引きを厚くして販売回転率を上げようとする経営姿勢を持ち、自ら修理をすることは少ないのであり、このような、同業者に比べて売上原価率を高める特殊事情のある原告に対し、業態の異なる可能性のある同業者の平均売上原価率でもって原告の売上金額を推計することは、原告の所得を過大に認定するおそれがあることを理由に、本件各売上原価率による原告の売上金額の推計は違法である旨主張(原告の反論2の一ないし三)する。

そこで、まず、右<1>の主張についてみるに、前記で認定、判断したとおり、本件各売上原価率の算出の基礎となった者は、原告と同じく愛知県内で仏壇、仏具小売業を営む者で、かつ、一事業年分の売上原価が一一〇〇万円以上六七〇〇万円未満の者(原告の売上原価のおよそ半分以上二倍以下の売上原価である者)であり、地域、業種、規模のいずれの点においても、原告との間に類似性を有する同業者であり、その抽出基準には合理性があるというべきところ、原告の右主張は、右抽出基準を更に細分化し、販売の回転の早さ、修理注文受注の有無、程度等を右基準に盛り込むべきである旨の主張と解し得るが、右主張は、次の理由により採用し難い。すなわち、同業者の平均率による推計を行う場合、その推計の基礎となる各抽出同業者の営業状況に差があるのはむしろ当然のことであって、その平均値を求めることが本件推計方法の目的なのであるから、推計方法が業種の同一性、営業規模の一応の類似性及び平均値算出の整合性等、推計の基礎的要件に欠けるところがない以上、同業者間の通常存する程度の営業状況の差異は無視し得るものというべきである。しかるに、本件において、原告の主張する右営業状況の差異(販売の回転の早さ、修理注文受注の有無、程度)が、当該同業者間に通常存在しない程度のものであること、換言すれば、同業者の平均値を算出する過程で捨象されてしまうような性質、程度のものではないことを認めるに足りる証拠はない。したがって、原告主張の右営業状況の差異を右抽出基準に盛り込まないで算出した本件各売上原価率には何ら不合理な点はない。

次に、原告の前記<2>の主張についてみるに、右は、本件各売上原価率には一応の普遍性、合理性が存するが、原告には、一般の同業者にはみられない個別的な事情が存在するため、原告に対し右比率を適用して、売上金額を推計することには合理性がないとの主張、すなわち、いわゆる特殊事情の主張と解し得るところ、前記の同業者の平均率による推計課税の性質に鑑みると、右特殊事情の主張は、それが当該同業者間に通常存する程度の営業状況の差異にとどまらない原告特有の個別的事情であること、かつ、このような事情が原告に存在するため、原告の売上原価率は同業者の平均値よりも格段に高くなるはずであることの各事実を、原告において主張、立証しない限り、採用するに値しないものというべきである。しかるに、本件において、原告が主張する右各事情(原告が卸商的な販売を営んでいること、値引きを厚くして販売回転率を上げようとする経営姿勢を持っていること、自ら修理をすることは少ないこと)が原告に存することは原告本人尋問の結果により認められるものの、右各事情が、同業者にはみられない原告特有の個別的事情であること、このような事情が原告に存在するため、原告の売上原価率は同業者の平均値よりも格段に高くなるはずであることについては、これを認めるに足りる証拠はない。したがって、原告の右主張も採用し難い。

してみると、原告の売上金額の認定について、本件各売上原価率を用い、推計の方法によることは合理性があるものというべきである。

本件係争各事業年度につき、前記争いのない各売上原価の金額を右各事業年度における本件各売上原価率で除することにより、各売上金額を推計することができ、これによれば、右各事業年度における原告の各売上金額は、別表二の被告主張額(予備的)欄の売上金額欄記載のとおりであると認めるのが相当である。

3  営業外収益について

(一)  昭和四八年分の営業外収益のうち、雑収入一二万五〇〇〇円については当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第三、四号証及び弁論の全趣旨によれば、同年分における原告の受取利息は、東海銀行半田支店分として九万四六二八万円、半田信用金庫本店分として二一四円、合計九万四八四二円であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない(その内訳は、別表七の昭和四八年分欄のとおりである。)。

(二)  昭和四九年分の営業外収益については、前掲乙第三、四号及び弁論の全趣旨によれば、同年分における原告の受取利息は、東海銀行半田支店分として一四万一二四〇円、半田信用金庫本店分として一三七円、合計一四万一三七七円であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない(その内訳は、別表七の昭和四九年分欄のとおりである。)。

(三)  昭和五〇年分の営業外収益のうち、雑収入八六二五円については当事者間に争いがなく、前掲乙第三、四号証及び弁論の全趣旨によれば、同年分における原告の受取利息は、東海銀行半田支店分として二六万七三七九円、半田信用金庫本店分として一〇円、合計二六万七三八九円であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない(その内訳は、別表七の昭和五〇年分欄のとおりである。)。

(四)  以上によれば、本件係争各事業年度における営業外収益は、別表二の被告主張額(予備的)欄の営業外収益欄記載のとおりであることが明らかである。

4  以上を総合すると、本件係争各事業年度における原告の各所得金額は、別表二の被告主張額(予備的)欄の所得金額欄記載のとおり、

昭和四八年分 八八二万〇五二三円

昭和四九年分 一五〇九万五二四四円

昭和五〇年分 八二七万九七三三円

であることが認められ、右各所得金額は、本件各更正処分に係る各所得金額を上回るものである。

してみると、本件各更正処分は、右認定の所得金額の範囲内でなされたものであるから、所得を過大に認定した違法があるとの原告の主張は、その理由がなく、本件各更正処分及びこれを基にしてなされた本件各賦課決定は適法なものというべきである。

五  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋利文 裁判官 加藤幸雄 裁判長裁判官加藤義則は転任のため署名捺印できない。裁判官 高橋利文)

別表(一)

所得金額の計算表

<省略>

別表(二)

所得金額の計算表

<省略>

別表(三)

昭和四八年分仕入金額明細表

<省略>

<省略>

<省略>

別表(四)

昭和五九年分仕入金額明細表

<省略>

<省略>

別表(五)

昭和五〇年分仕入金額明細表

<省略>

<省略>

別表(六)

売上原価率表

<省略>

別表(七)

<省略>

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